北杜折々の記2

 北杜移住の目的は自身の心身をいたわることでしたが、これまで行ってきた在宅ホスピスケアを総括してそれを後世のために残すという、たいそう自己満足的かつ傲慢な目的もありました。ただしそのために選んだ方法は、“英語で論文を書いて世に問う”ということなので、これまた身の程知らずと言われても仕方ありません。前置きは終わり。

 

実はいま、“我が国の在宅緩和ケアの現状と課題(英文タイトル:Current Status and Issues of Home Palliative Care in Japan)”という論文に手を染めています。資料を整理していて、大変驚いたことがあります。それは2020年の在宅死の頻度が、前年度(2019年)と比較して大きく増加していることです。これまで1213%で推移していた在宅死率が13.6%から15.7%、緩やかな下行カーブを描いていた非がん死が14.1%から15.3%,がん死に至っては13.6%が16.9%に増加しているのです。在宅死率で見る限り、『国を挙げて推し進めてきた在宅医療の普及が成功している』とこれまではなかなか言えませんでした。この増加の意味を考えてみましょう。

増加の原因は、間違いなくCOVID-19感染拡大が関係しています。従って、この増加傾向はしばらく続くでしょう。私が注目したのは、死がカウントダウンの状態になっているがん患者だけではなく、死の時期を予測しがたい非がん患者の在宅死も増加していることです。これはたぶん、新型コロナ感染症が流行している現在は入院していると面会制限があるので、亡くなるときに家族といえども傍にいることができないことに関係しているのでしょう。とすれば、家族構成は変わっても、家族を思う日本人の気持ちは変わらないと考えてよいと思います。

 もう一つ注目したことは、在宅医療供給体制が整ってきていることです。在宅での看取りの需要をサービス提供側の診療所、訪問看護ステーション、介護保険サービスなどが満たしている、患者さんやご家族の希望に対応する力が、地域に育ってきていることです。いま以上の在宅医療に対する需要があったとしても、十分対応できます。それだけの大きな力を地域が蓄えてきたこと。これが医療法の改正(1992年)、介護保険制度の誕生(2000年)などに代表される在宅医療推進政策の成果だと喜んでいる次第です。

北杜山人敬白