北杜折々の記3

 前回の折々の記で、「わが国の在宅死率が大きく変化(増加)している」ことを記しましたが、在宅死率は在宅医療に関するさまざまなことを判断する上で、非常に重要な評価指標となっています。“さまざまなこと”とは、国がどちらの方向を向いているのか、その向く方向へ関係者の理解は得られているのかなどです。その成果を評価するのが、国の在宅死率の変化、ということになります。

 国が向かわんとする方向は診療報酬に通常反映されますので、医療関係者は好むと好まざるとに関わらずその方針を理解し、より診療報酬の高い方向に向かうことになります。診療報酬で具体的な医療内容まで誘導するわが国のやり方は、非常に巧妙かつCleverなシステムです。その仕組みがわかればわかるほど、大変よくできた仕組みだなと私は最近思うようになりました。

 在宅医療を国が重視する政策に転換した最大の制度改革は、1992年の『医療法の改定』です。病院や診療所でも何でもない『患者の居宅』で医療を行うことを国が認めるという内容なので、まさに大改革です。これは今から30年前の話で決して古いことではありませんが、ただしその布石は、1982年の『老人保健法の制定』と『訪問看護(退院患者への継続看護)料の新設』という形でそれよりも10年も前に打たれているのです。それだけの準備があっての方向転換であったことを、私たちは銘記すべきでしょう。

 その後、在宅医療に診療報酬上のIncentive(誘因)をつけ、在宅医療の推進と具体的な形(在宅療養支援診療所の新設)を国が明示したのは、2006年の診療報酬改定(介護報酬との同時改定)でした。これは『一般診療所との間に格差を設ける点数』として日本医事新報で紹介されており(No.4278、2006年4月22日p16)、具体的な診療報酬点数でみればその差は歴然としています。「一般診療所」vs「在宅療養支援診療所」の形で表しますと、たとえば往診料の緊急時加算(1回あたり)は325点vs650点(200%)、在宅患者訪問診療料の在宅ターミナルケア加算(1回のみ)は1200点vs10000点(833%)など、明らかな差別化がなされています。1495点/日(処方せんを交付する場合)という高い診療報酬が設定されている在宅末期医療総合診療料にいたっては、在宅療養支援診療所として届け出ている診療所でしか算定できません。

 この極端な点数設定(!)から見えてくることは、国からのメッセージが『在宅医療を行う場合は、“在宅療養支援診療所”の形をとりなさい』ということであることがわかります。  

 次回は、以上の視点に立ってこの北杜で行われている在宅医療を振り返ってみたいと思います。

 

北杜山人敬白

 ※上記の診療報酬は2006年当時の点数です。