北杜折々の記14

上:見返り鹿、下:北杜市と墨田区の相違
上:見返り鹿、下:北杜市と墨田区の相違

在宅医のとまどい 1 地理学上の違い、北杜市と墨田区

 

 北杜市に移住して1年半。生活は充実し、細々であるが在宅診療も続けている。だが、こと在宅医療について言えば、いまだ消化不良状態が続いており、とまどいの日々を送っている。これからシリーズで、何が消化不良なのか、何にとまどっているのか、をレポートしたいと思う。

 

「おっと危ない。どかないのだったら轢いちゃうぞ。」

 夜間の緊急往診のこと。勝手がわからないので徐行しているためか、ライトに浮かぶ鹿の親子はまるで動こうとしない。

「ここは俺の縄張りだ。」

言われてみれば確かにカーナビの地図なき藪道は、かつての鹿の居住地。それがわかったのでじっと動くのを待つのだが、周りが真っ暗なので気味が悪い。どうして自分がここにいなければならないのかと、思わず自問する。

こちらに来てのとまどいの第一は、夜になると周囲が真っ暗なこと。しかも都心では見ることもない動物が闊歩している。暗い中を往診するには、気合いプラス勇気が必要だ。

 

 一年半前まで僕が仕事をしていた墨田区は、面積が13.77km2。これに対して北杜市は602.48km2だ。北杜市がいかに広いかわかる。都内で働いていた時は墨田区を起点に江東、江戸川、台東区まで訪問の足を延ばしていたが、こちらに来てからは北杜市から足を踏み出すことはない。人口について言えば、墨田区は275,724人,北杜市に46,378人が居住する。人口密度で見ると墨田区が20,023.5人/ km2、北杜市が77.0人/ km2である。あまりの違いに戸惑うのであるが、要は「墨田区と比較して北杜市ははるかに広いが、人口は大変少ない。一言でいえば、北杜市は過疎地」ということになる。夜は人に会うよりも鹿に会う可能性が高いのは致し方ないだろう。

 

 続いて、居住する人たちの年齢に関するとまどいについて触れたい。

「お若いですね!」

北杜市でこのように言われても、喜んではいけない。60歳代は若い人、周りが自分よりも高齢なだけの話だからだ。僕の歳(75歳)になっても年寄扱いされることはなく、餅つきでは「若いから」とかつがれて重い杵を持たされる。とにかく北杜市の居住者の年齢は高い。それを数字で示してみようと思う。

北杜市の65歳以上の高齢者は全人口の39.5%(18,321/46,378人)、一方墨田区は22.0%(60,740/275,724人)。後期高齢者について言えば、北杜市が20.3%(9,422/46,378人)、墨田区は11.6%(31,935/275,724人)である。これは「北杜市だから」ではなく、日本国中の地方の山村部は大同小異だろう。

 

 次回は「医療過疎の問題」に関するとまどいについて記したいと思う。

 (2023年3月12日記)

 ※面積:全国都道府県市区町村別面積調(2022.10.1, 国土地理院)

  人口:住民基本台帳( 2022.1.1, 総務省)