北杜折々の記18

図1立川在宅ケアクリニック周辺地域の自宅死亡の現状、図2墨田区のがん在宅死率の変化、図3在宅緩和ケア充実診療所の数と在宅死率(クリックで拡大)  
図1立川在宅ケアクリニック周辺地域の自宅死亡の現状、図2墨田区のがん在宅死率の変化、図3在宅緩和ケア充実診療所の数と在宅死率(クリックで拡大)  

在宅医のとまどい3 過疎地における在宅医療の役割 3)自宅死の二つの形

 

 前回の折々の記では、自宅死が場所によってさらに“わが家死”と、“わが家死以外の自宅死”に区別されることを示しました。多くの人が望むのは言うまでもなく、“わが家死”です。今回みな様にお伝えしたいことは、医師が死を証明する際、同じ在宅死(=自宅に分類されている場所での死)といっても、死亡診断と死体検案の二つの形があることです。

 

 わが家死は、これまでの在宅医が往診して患者の家で死を証明(診断)するものですが、医師が往診しない場合や往診の結果“異状死”と判断した場合には、“死体検案”となります。死体検案をするためには通常、ご遺体を患者の自宅から警察へ搬出し、そこで医師が死体をよく調べ検案書を作成します。この作業は警察から委嘱された医師があたり、在宅医が検案することはまずありません。自宅で亡くなった場合、死亡診断書か死体検案書がなければ、家族は役場へ死亡届を提出することができません。

 

 僕はこれまで、約3000人の患者の在宅死に関わってきました。9割はがん患者であり(1989年~2000年半ばに131名、2000年半ば~2021年半ばに2432名)、残りは非がん患者なのですが、その中で検案になったのは自殺したがん患者の1名だけで、あとはすべて死亡診断の形(患者の自宅まで往診に行き診察をしたうえで診断書を発行するという形)をとっています。そのようなことが当たり前だと考えていたので、自宅で亡くなった患者はすべて医師がそこへ赴き、死亡診断する、つまり在宅死イコール在宅死亡診断、と勝手に思い込んでいました。患者を在宅で診てきた医師は、患者が自宅で亡くなった時に自宅へ往診して死亡診断書を発行する。それが在宅死の頻度(在宅死率)となって表れるので、逆に在宅死率は在宅ケアの質を反映するはずだ。そのような思い込みをしていたのです。いずれにしろ、患者視点に立って在宅医療の質を評価しようとすれば、死亡診断と死体検案は区別すべきだと考えています。

 

 死体検案に長年携わってきた荘司輝昭院長(立川在宅ケアクリニック)によると、自宅死の半数は死亡診断の形をとっているとのことです。この比率は年度別、地域別にみてもあまり大きな差がないようです。繰り返しになりますが、在宅死率は自宅死者数が全死亡者の中の占める割合(図1)を示しており、通常その半数が死体検案に相当し、その絶対数はあまり変化しないので、在宅死率の変化は死亡診断した自宅死が増えていると判断することができます。墨田区の統計を見ても、ホスピスパリアンのクリニック川越の関与する自宅死数が地域の在宅死率とパラレルな動きをしています(図2)。つまり、一定の地域で在宅緩和ケアを専門とするクリニックが誕生すれば、その地域の在宅死率は増加するのです。このことは、人口当たりの在宅緩和ケア充実診療所加算の数と在宅死率の相関をみればよくわかります(図3)。

 

 検案になるのは、約3/4が独居患者です。この数を減らすためにはどうすればよいか、今後の大きな課題です。それと同時に、在宅医は急変する患者に対応するだけではなく、呼吸が止まった時には現場に駆けつけ、死亡診断すべきだと僕は考えています。『覚悟のうえ』と言っても、在宅で過ごす患者や看取る家族にとって死は緊急事態です。しかしつい最近、「在宅医が往診せず、死亡診断ができないため死体検案となった事例が少なからずある」という話を荘司先生から伺い、これまたどうすればよいかと頭を抱えました。

 

 (2023年6月2日記)