医療用麻薬が使いづらい問題
がん性疼痛の緩和の切り札、医療用麻薬
「医療用麻薬の処方箋はほとんど出ていません。」
調剤薬局の薬剤師の言葉に、僕は耳を疑った。
「注射薬は?」、「もちろん出したことはありません。」
30年以上前の世界だ。これではわが家死を望んでも、実現は難しい。痛みを我慢するか、入院するしかない。いずれにしろ、患者の苦しみを十分緩和しないと、在宅でよい時間を過ごしてお迎えを受けることは夢物語になる。
WHOががん性疼痛のルールを発表したのは1986年。医療用麻薬の基礎的な研究は進んだが、普及に関しては非がん患者の慢性疼痛に対しての使用が世界的な問題になったこともあり、むしろ遅れ気味。特に日本は世界でも、医療用麻薬の使用量が最も少ない(図)。しかも、時代と共に増加する傾向すら認められない。大きな問題である。
この問題は国レベルの問題であるが、地域によっては改善がみられている。この地域でがんで亡くなる方の苦しみを緩和するには医療用麻薬が必須であるが、薬局で(まだどこででも、というわけにはいかない)徐々に麻薬処方箋が取り扱われるようになったので、地域は変わっていくはずである。調剤薬局が中心となって地域を変えていくことは、東京でも十分経験したことだ。その火が消えないよう、しばらく見守っていきたい。
疼痛や呼吸苦の緩和については、拙著「がん患者の在宅ホスピスケア」(医学書院、2013)を参照してください。麻薬の注射薬が普通に使用できるようになれば、地域の在宅医療はさらに変わり、わが家死が増えるはずだと信じている。
(2023年8月30日記)