チームの要は?
県は異なるが、川上村は北杜市のお隣さん。国道141号を北上し野辺山経由で、北杜市のわが家から車で30分の距離だ。川上村の在宅医療で気がかりなことがあったので、この夏、川上村を訪問した。結果的に気がかりなことは杞憂だった。川上村の在宅医療は、佐久総合病院の手厚いバックアップがあって万全。むしろ、非常にうまく行っている印象を受けた。ところで今回の話題はそのことではなく、川上村の訪問看護師が語っていた「福祉職が多数を占めるケアマネに、あそこまで医療の知識が必要なのか」ということと関連している。その看護師はケアマネの資格も持っていて、最近の研修会に出て驚いたとのこと。
医療職でないケアマネに専門的な医療知識を要求することは、どうも厚労省の方針のようだが、その是非はともかく、在宅医療におけるチームアプローチの形が変わってきているな、という印象を僕はますます強くしている。実地医療に携わる医師として実感していることだ。今回はこの問題に触れたいと思う。
在宅医療では病院で行われているTop Downのチーム(Multidisciplinary Team)の形ではなく、ある意味で専門職が横並びのInterdisciplinary Teamの形をとっている。非常に民主的なチームの形であるが、この形で最も重要なことは、Teamの要をどの職種が担うか、ということである。これまでの経緯を見ていると、どうもケアマネにその役割を担ってもらおうと厚労省は考えているのではないかと思う。僕が厚労省に出入りしていた頃、そのような根強い考えがあることを感じていたし、僕はあえてその中でそこに含まれる問題点を指摘したこともある。一言でいえば、もしその役割をケアマネが担うとしたら、非常に高度な専門知識-医療と福祉にまたがる-を持つ必要がある、ということだ。その考えはいまも全く変わりない。それからもう一つ指摘したことは、ケアマネがチームの要としての役割を果たすためには、医師のチェックが不可欠だということ。2016年の医療保険・介護保険の同時改定では、そのことが反映されている。
制度的にケアマネの権限を強めることになるが、それはそれでよしとしても、現実に問題を感じることは少なくない。まず、医師の知らないところでケアマネと本人、家族が相談して、在宅から入院や施設入所を決めてしまうことがある。在宅医療を専門にする医師は基本的に「我が家で過ごしたい」という患者の希望を優先するので、安易に入院や入所を考えることはしない。こちらに移住した当初、このようなことがあって驚いたことがあり、この時はケアマネに強く注意をした。また、医療的な問題が明らかにあるのに、それを医師に報告しないで放置されたこともあった。新たな症状が出たり変化があったりした場合、医師にぜひ相談してほしいと願っている。あるいは、医師に相談がないままケアマネが「在宅は無理」と決めつけ、施設や病院をあたる、ということもあり、戸惑った経験もある。在宅生活が可能かどうかは極めて高度な判断であり、その決定に医師の判断が反映されないことは望ましくない。
在宅でのチームアプローチで重要なのは統合性、専門性、迅速性の三つである。それぞれの専門職が力を発揮してより質の高いケアを効率よく提供するためには、専門性がしっかり保証されていることだ。この問題は当然コストパフォーマンスの問題とも深く関わっており、現場にいるとケアの経済性の方が優先されているのではないかと思うことが多々ある。それは逆に言うと、それぞれの専門職が本当に専門性を発揮しているかどうかが問われていることである。自らのIdentityをしっかり持ち、「この専門職はいらない」と言われることがないよう努めることが重要だ。
いろいろな気になることを述べたが、総体的に見ると、数々の問題を抱えつつ、在宅におけるTeam approachは進歩しているのではないかと考えている。在宅医療はまだまだ進化の過程にある。
(2023年11月15日 記)